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2012年4月26日 (木)

「って」  ~話し言葉の文法(1)~


先日、女性弁護士さんの2時間の講演テープを文字に落とすという、いわゆる「テープ起こし」の作業をしました。この講演会は小さなグループの集まりでしたから、録音といっても昔ながらのポータブル・テープレコーダーを机の上に置いて、教室ぐらいの小さな部屋でマイクなしで録音していて、雑音の中での音声がなかなか聞き取れません。最初からテープを何回も何回もキィキィと巻き戻ながら聞き直すという難作業でした。安請け合いしたことを後悔ながらも、約1ケ月ぐらい掛けて仕上げましたが、それでもその作業を通して日本語という観点、特に「話し言葉」と「書き言葉」という観点からは、いろいろと面白いことが分かり楽しめました。


最近はテレビ番組でのトークがほとんどテロップに落とされていて、おそらくそのテロップ作りという仕事をしている人がたくさんいるのだと思います。その場合も画面上の限られた文字数に、話者の「話し言葉」を「書き言葉」に書き直す必要があって、ほとんど全く違う言語に変換するぐらいの大変な作業だと思います。ニュース番組であれば、何を言っているか分からない大臣の言葉を正確な「書き言葉」の日本語にする必要がありますし、バラエティ番組であれば、タレントのキャラクタを殺さずに楽しく書く必要があると思います。それも本番までのごく僅かな時間の中で行なっているものと思います。「話し言葉」から「書き言葉」への変換のルールを抽出して、ノーハウを蓄積していくことは世の中の為になるように思います。


「話し言葉」を出来るだけ忠実に「書き言葉」に直すと、たとえば次のようになります。今回「テープ起こし」をした講演から文例を借用します。(テーマがテーマだったので、話題が物騒で申し訳ありません。)

「配偶者からの暴力ってどれくらいあるかっていうと、ちょっと古い統計なんですけれども、分かりやすい形でいうと、たとえば殺人事件、だいたい配偶者間で年200件ぐらいあるんですよ。」   ・・・例文[]

これでは文章にした時に読みにくいですし、特に偉い先生が話した場合などは、もう少し格調を高くしておく配慮も必要でしょう。「話し言葉」にはアクセントやイントネーションがありますから単に文字の並び以上の表現が含まれていて聴き手の理解を助けます。「書き言葉」にはその機能がないので、書き下した文章はその分分かりにくくなります。さらに「話し言葉」では、往々にして話が完結しなかったり、省略や倒置が多く用いられたりしますので、それらを適切に補う必要もありますが、なるべく( )を使わずに自然な文章で読み下せるように工夫するのがいいと思っています。

今回の講演の講師は実に語りの上手な先生で、臨場感に溢れた会話を多く盛り込み、まるで劇を見ているように聴衆を引きつけていました。独特の話し口調(口癖)もあって、そのまま「書き言葉」にすることは難しく、講演の雰囲気を残しながらも、慎重に「書き言葉」に変換して行きました。これは結構クリエーティブな創作作業でした。

講演録音を聴きながら一旦全部を文字化した段階(例文[]の段階)で、まず「って」の表現が多いのに気付きます。「って」を最初から一つづつ追いかけて行くと、動詞のて形で発生する促音便、すなわち、会う→会って、持つ→持って、売る→売って、のような場合があります。これは「話し言葉」特有のものでないので、今回は問題にしないとすると、次2つのケースで「って」が多発していることが分かって来ました。

上記、例文[1]の冒頭部分の 「配偶者からの暴力ってどれくらいあるかっていうと、・・・」の最初の「って」は主題を示す係助詞の働きをしていて、「は」に置き換えられることが分かります。「私ってバカよね。」のパターンです。単に「は」というよりも、更に「というのは」とか「とは」に置き換えた方が適切な場合もあり、強く主題を“取り立て”ています。(少し脇道にそれますが、「って」は基本的に「が」ではなく「は」に置き換わるというのも面白いですね。「は」と「が」の使い分けを考える時のヒントになりそうです。)

2番目の「どれくらいあるかっていうと、」の「って」はそれとは違います。「・・・ って考えると、」、「・・・ って思います。」など考えている内容を示す場合や、名詞を修飾して「・・・っていう〔名詞〕」のような場合によく使われる「って」です。これらの「って」は、格助詞「と」に置き換えらます。

「は」に置き換えられる「って」と、「と」に置き換えられる「って」は、いずれも助詞の働きをしていて、「話し言葉」ならではの表現で、そのまま文章化すると「書き言葉」としては違和感があり、文章では通常の助詞に置き換えた方がよさそうです。従って、例文〔1〕の最初の部分は次のようになります。

「配偶者からの暴力どれくらいあるかいうと、・・・」 ・・・例文〔2〕

少し例外的に次のような「って」もありましたので、補足しておきます。「って」というよりも「だって」です。たとえば、

「赤ん坊だってお金が掛るんです。オムツだって洗濯しなけりゃならないし、ミルクだって飲むし、・・・」  ・・・例文[3]

これは「書き言葉」としては、助詞「も」あるいは「でも」などに置き換えるべきものです。また、接続詞としての単独の「だって、・・・ 」もあって、これも「でも、・・・」に置き換えられます。

ちなみに、Wordの検索機能を使って、例文[]の段階で、「って」を検索して調べてみますと、今回の2時間の講演で、「と」に置き換えられる「って」は335回、「は」に置き換えられる「って」は52回、「も」に置き換えられる「って」は13回使われていました。もちろん、これらの数字は講演の内容、講師の個性によるところが大きいと思いますが、圧倒的に「と」に置き換えられる場合が多いように思います。

「って」を助詞「と」「は」「も」に置き換えるだけでかなり文章らしい文章になります。「って」以外の言葉についても、次回以降に考えて行きます。 (⇒つづく)

 

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